
タコが眠っている間に体の色が変わるという話を聞いたことがありますか。起きているときのカモフラージュとは異なり、眠りながら自然と色が変化するというこの現象は、睡眠研究の観点からも非常に興味深いものです。
2021年にブラジルの研究チームが行った研究では、タコの睡眠を映像で詳しく記録しました。すると体が白く静まる時間と、突然色鮮やかに変化する時間が交互に現れることが確認されたのです。メデイロスらのこの研究は、タコの睡眠に人間と似た構造があることを示す画期的な発見として注目を集めました。
体の色の変化を詳しく見ると、二種類の眠りが存在することがわかります。ひとつは体が白く静まり、動きがほとんどない穏やかな眠りで、約7分間続きます。もうひとつは体が色鮮やかに変化し、眼球も動く活発な眠りで、約40秒間続きます。この二種類の眠りのパターンは、人間の深い眠りと浅い眠り、つまりノンレム睡眠とレム睡眠に似た構造を持っているのです。タコの場合は体の色の変化という形で、眠りの種類が文字通り一目瞭然でわかるのが面白いところです。
さらにこの二種類の眠りは約30分おきに繰り返されることもわかっています。人間の睡眠サイクルが約90分であるのに対し、タコは約30分という短いサイクルで繰り返しているのです。
最も驚くべきことは、人間とタコが5億年以上前に共通の祖先から分かれた生き物であるにもかかわらず、似たような睡眠サイクルを持っているという点です。5億年という途方もない時間を経ても、深い眠りと浅い眠りを交互に繰り返すという睡眠の基本的な構造が独立して進化してきたことは、睡眠という現象が生き物にとっていかに根本的に重要なものであるかを示しています。
人間の眠りは脳波を測定しなければその深さを知ることができませんが、タコは体の色の変化という形で睡眠の状態を外から観察できます。眠りの深さが視覚的にわかるという点では、タコは睡眠研究にとって非常にユニークな存在といえます。タコの鮮やかな色の変化の裏に、私たちと共通する睡眠の仕組みが隠されているとすれば、夜の海の底で眠るタコの姿がいつもとは違って見えてくるのではないでしょうか。