
「なんであのとき、あんな判断をしてしまったのだろう」と後悔した経験はありませんか。衝動的な買い物、思い切った賭け、冷静に考えればしないような選択。実はそのとき、睡眠不足だったということはありませんか。
2017年のマリックらの研究では、被験者にAとBのふたつのボタンを選ばせるギャンブル課題が行われました。Aは40%の確率で50円が当たるが60%の確率で0円というハイリスクハイリターンな選択肢、Bは100%確実に25円が貰えるという安定した選択肢です。期待値で計算するとAは平均20円、Bは確実に25円となるため、合理的に考えればBの方が有利です。
ところが5時間睡眠の状態では、8時間睡眠と比べて被験者の約80%がAを選びやすくなりました。睡眠が不足しているだけで、これほど多くの人がリスクの高い選択に傾いてしまうのです。睡眠不足になると脳の前頭前野の機能が低下し、リスクを正確に評価する力や衝動を抑える力が弱まります。その結果、確実な利益よりも大きな報酬を求めるギャンブル的な思考が優位になりやすくなるのです。
さらに厄介なのは、この変化に自覚がないという点です。睡眠不足でハイリスクな行動をとるようになっていた被験者たちは、「自分の判断はそんなに変わっていない」と回答しました。行動は変わっているのに、本人にはその自覚がないのです。睡眠不足のときほど「自分は大丈夫」と思い込みやすいというのは、非常に危険な状態といえます。
この研究結果は、日常のさまざまな場面に当てはまります。大きな買い物や投資の判断、重要なビジネスの意思決定、人間関係における感情的な判断。こうした場面で普段とは異なる選択をしてしまう背景に、睡眠不足が潜んでいることがあるかもしれません。「なんとなくいつもと違う判断をしてしまった」と感じるときは、前日の睡眠を振り返ってみる価値があります。
重要な決断を迫られているときこそ、十分な睡眠を取ったうえで臨むことが大切です。睡眠不足の状態での判断は、自分では気づかないうちにリスクの高い方向に傾いている可能性があります。「一晩寝てから決める」という言葉は、単なる慣用表現ではなく、科学的にも理にかなったアドバイスだったのです。