
あくびは眠いときや退屈なときに出るもの、という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。会議中や授業中にあくびが出てしまって恥ずかしい思いをした経験がある方もいるかもしれません。しかし実はあくびには、脳を冷やして覚醒を保つという重要な役割があることが研究から示されています。そしてその仕組みを知ると、夏にあくびが減るという意外な現象の理由も自然と理解できます。
ガラップらの研究によると、あくびをするときに大きく息を吸い込む動作は、外の冷たい空気を取り込むことで熱くなった脳の温度を下げるためだと考えられています。あくびをすると口が大きく開き、普段の呼吸よりもはるかに多くの空気を一気に取り込みます。この動作によって鼻や口から入った外気が脳の近くを通り、熱を帯びた脳を冷却する効果をもたらすのです。あくびはいわば脳のクーラーのような役割を果たしているといえます。
眠くなると脳の温度は上がりやすくなります。脳が活動を続けるにつれて熱が発生し、その温度が上昇すると認知機能や集中力が低下していきます。そこで体はあくびによって脳を冷やし、再び覚醒した状態を保とうとします。「眠い→あくびが出る」という現象は、眠気に負けそうな脳を冷やして目を覚まそうとする、体の自動的な防衛反応だったのです。眠気覚ましのためにあくびをしているというよりも、体が無意識のうちに脳の温度調節を行っているというのが正確な表現かもしれません。
また、あくびが伝染するという経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。誰かがあくびをしているのを見ると、自分もあくびがしたくなる。この現象も脳の温度調節という観点から説明できる可能性があります。周囲の人があくびをしているということは、その場の温度や状況が脳を冷やす必要がある環境であることを示しているのかもしれません。体が他者の行動から環境の情報を読み取り、同様の反応を起こしているとも考えられています。
では夏はどうなるのでしょうか。季節ごとにあくびの出やすさを調べた研究では、冬の約22℃の環境では45%の人があくびをしたのに対し、夏の約37℃の環境ではわずか24%にとどまり、夏は冬の約半分になったという結果が出ています。夏になると眠気が増す気がするのに、あくびが減るというのは一見矛盾しているように思えます。しかし脳の冷却という観点から考えると、この現象はとても合理的に説明できます。
その理由は外気温にあります。外の気温が体温に近いほど、息を吸い込んでも冷たい空気が入ってこないため、脳を冷やす効果が得られません。冷やす効果が期待できないとわかると、体はあくびを起こす必要性を感じなくなるのです。夏にあくびが減るのは、あくびのクーラー機能が外気温の高さによって働きにくくなっているからだといえます。逆にいえば、冬の寒い日にあくびが多く出るのは、冷たい外気を取り込むことで脳を効率よく冷やせる条件が整っているからなのです。
この研究が示すことは、あくびが単なる眠気や退屈のサインではなく、脳の温度管理という生理的な役割を持っているということです。あくびが出たときは脳が覚醒を保とうとしているサイン、逆に夏にあくびが減っているときは脳を冷やす手段が制限されているサインとして受け取ることができます。
暑い夏の日に眠気を感じやすくなるのは、あくびによって脳を冷やす仕組みがうまく働かなくなっていることも一因かもしれません。だからこそ、エアコンで室温を適切に保つことは単に快適さのためだけでなく、脳のコンディションを整えるうえでも重要な意味を持っています。室温を適度に涼しく保つことで、あくびが本来の脳冷却機能を発揮しやすくなり、日中の集中力や覚醒度の維持にもつながるのです。
あくびをしたくなったとき、それは体がサボっているのでも、失礼なことでもありません。脳が一生懸命に自分を覚醒させようとしている、健気なサインなのです。次にあくびが出たときは、脳が頑張って温度調節をしているのだと、少し温かい目で見てあげてください。