
周りに「毎日5時間しか寝ていないけど全然平気」という人がいると、自分も少ない睡眠で大丈夫なのではと思ってしまうことはありませんか。しかし実際には、短い睡眠で本当に問題なく過ごせる人はごく少数であり、その背景には遺伝子レベルの違いがあることが研究から明らかになっています。
4〜6時間の睡眠でも体調や仕事に大きな問題が出ない人を「ナチュラルショートスリーパー」と呼びます。一見うらやましい体質に思えますが、これは努力や習慣によって身につくものではなく、生まれつきの体質によるものです。2009年にヒーらが行った研究では、3代にわたって短時間睡眠でも問題なく過ごせる家族を調査したところ、睡眠時間に関わる遺伝子「DEC2」に変化があることが発見されました。短い睡眠で十分な回復ができる体質は、遺伝子によって決まっているのです。
では実際にナチュラルショートスリーパーはどれくらいいるのでしょうか。2022年のジェンらの推定によると、本物のナチュラルショートスリーパーは人口の1〜3%程度とされています。つまり100人いても本当の短眠体質の人は1〜3人しかいない計算になります。「自分はショートスリーパーだ」と思っている人の多くは、実際には睡眠不足の影響に気づかないまま過ごしている可能性が高いのです。
この体質が本物かどうかを確かめた興味深い研究があります。2015年のペレグリーノらが行った双子研究では、短眠体質と通常の睡眠が必要な体質の双子に徹夜後のテストを受けてもらいました。同じ環境で育った双子であっても、短眠体質の方はミスが40%少ないという結果が出ました。育つ環境が同じであっても、適切な睡眠時間には体質による個人差があることが、この研究によって明確に示されています。
この結果が意味するのは、睡眠時間の適正値は人によって異なるということです。周りの誰かが少ない睡眠でも元気そうに見えるからといって、自分も同じようにできると考えるのは危険です。その人がナチュラルショートスリーパーである可能性は1〜3%しかなく、残りの大多数は睡眠不足の影響を自覚しないまま蓄積しているだけかもしれません。
「あの人は少ない睡眠で平気なのに、自分はダメだ」と感じる必要はありません。必要な睡眠時間は体質によって決まっており、それは意志の強さや努力とは無関係です。自分に必要な睡眠時間をしっかりと確保することが、体と脳を本来のパフォーマンスで動かし続けるための最も確実な方法なのです。