
朝目が覚めたとき、口元や枕にヨダレの跡がついていた、という経験をしたことがある方は少なくないのではないでしょうか。少し恥ずかしい気持ちになりながらも、「よく眠れた証拠かな」と前向きに捉えている方もいるかもしれません。ではそもそも、睡眠中の唾液はどのような状態になっているのでしょうか。実は研究によって、睡眠中の唾液にまつわる意外なメカニズムが明らかになっています。
まず驚くのが、睡眠中の唾液の分泌量です。ティらの研究によると、睡眠中の唾液分泌量は日中と比べて最大90%も低下することがわかっています。特に深い睡眠の状態にあるときほど、その低下は顕著になります。つまり、ぐっすり眠っている間は唾液がほとんど出ていない状態なのです。日中は無意識のうちに絶えず唾液を分泌し、飲み込んでいますが、睡眠中はその働きが大幅に抑えられています。
では、唾液がほとんど出ていないのであれば、飲み込む動作はどうなっているのでしょうか。ウルダーらの研究によると、睡眠中も無意識のうちに嚥下反射、つまり飲み込む動作は起きているようです。ただしこれは浅い睡眠のときにしか発生せず、その頻度は日中と比べて約90〜98%も減少するとされています。深い眠りの中では、唾液を飲み込む動作もほぼ起きていないのです。
ここで疑問が生じます。唾液の分泌量も飲み込む回数も大幅に減っているのに、なぜ朝起きるとヨダレが垂れているのでしょうか。その答えは、唾液の処理が追いつかなくなることにあります。分泌量が減るとはいえ、唾液はゼロになるわけではありません。一方で嚥下反射が極端に少なくなるため、わずかに分泌され続ける唾液を飲み込む機会が著しく減ってしまいます。その結果、口の中に唾液が少しずつ溜まっていくのです。
さらにもうひとつの要因があります。睡眠中は全身の筋肉が緩んだ状態になりますが、これは口まわりの筋肉も例外ではありません。口を閉じた状態を保つための筋肉も緩んでしまうため、自然と口が開いてしまいます。口が開けば、溜まった唾液は重力に従って外へと垂れ出てしまうのです。唾液の処理が追いつかないことと、口が開いてしまうことの二つが重なって、朝のヨダレが生まれるというわけです。
こうしたメカニズムを知ると、ヨダレが出ることは決して異常ではなく、睡眠中の体の自然な状態から生じる現象だとわかります。ただし、日常的に大量のヨダレが出る場合や、いびきや口呼吸が気になる場合は、口まわりの筋肉の衰えや鼻づまりなど別の要因が関係していることもあります。気になる方は一度専門家に相談してみることをおすすめします。
朝の枕のヨダレを見て恥ずかしくなることがあっても、それは体が正直に眠りのメカニズムに従っている証です。唾液の分泌が減り、飲み込む動作もほぼなくなり、筋肉が緩んで口が開く。睡眠中の体はこれほどまでに脱力した状態で休んでいるのです。それだけ深くリラックスして眠れているとも言えるかもしれません。今朝のヨダレも、体が一生懸命休んでいたサインとして、少し温かい目で見てあげてください。